ますねた帳

数学の小ネタ、通称「ますねた」を公開します。

002-相加平均と相乗平均の大小関係 ☆

1 相加平均、相乗平均とは・・・

平均にもいろいろありますが・・・ 普通、単に平均といえばこれ。

{ \displaystyle
a_1,a_2,a_3...a_nの相加平均 \ : \
\frac{a_1+a_2+a_3+...+a_n}{n}
}

要するに要素たちの総和を要素の個数で割ったものを相加平均と呼ぶわけですね。 一方で、このような平均もあります。

{ \displaystyle
a_1,a_2,a_3...a_nの相乗平均 \ : \
\sqrt[n]{a_1 \cdot a_2 \cdot a_3 \cdot ... \cdot a_n} \\
(ただしa_1,a_2,a_3...a_nは全て正の数)
}

正の数である要素たちをすべて掛け合わせて、「要素の個数」乗根を取ると相乗平均が得られます。直感的に言うと、すべての要素が対等な立場(同じ1次元分の大きさ)だとすれば、それをn個すべてかけたものはn次元分の大きさになるわけだから、n乗根を取ると大体1次元の大きさになり平均としての役割が果たせるくらいのオーダーになってくれます。なお、実数上で負の数の偶数乗根を考えることができない都合上、要素たちの積が負の数になるケースを排除するため相乗平均を考えるとき要素たちはすべて正の数であるとします。

相乗平均を平均として使用することは、相加平均ほど多くはないのですが、 「すべて正の数である要素たちの相加平均と相乗平均とでは相加平均の方が大きくなる(あるいは等しい)」 という事実はよく不等式の証明や最大値・最小値の計算などで使用されます。つまり、以下の関係が成り立ちます。

{ \displaystyle
【相乗平均・相乗平均の大小関係】 \\
a_1,a_2,a_3...a_nを全て正の数としたとき、以下の不等式が成り立つ。 \\
\displaystyle
\frac{a_1+a_2+a_3+...+a_n}{n} \geqq \sqrt[n]{a_1 \cdot a_2 \cdot a_3 \cdot ... \cdot a_n} \\
(等号成立は、a_1=a_2=a_3=...=a_nのとき)
}

一般のnに対してこれを証明するのは割と大変。

2 高校数学の場合

高校で習う相加平均と相乗平均の大小関係は、主に要素が2つの場合です。

{ \displaystyle
【相乗平均・相乗平均の大小関係(2要素版)】 \\
a>0,b>0のとき、以下の不等式が成り立つ。 \\
\displaystyle
\frac{a+b}{2} \geqq \sqrt{a b} \\
(等号成立は、a=bのとき)
}

これなら証明は容易。

{ \displaystyle
【相乗平均・相乗平均の大小関係(2要素版) の証明】 \\
辺々正の数であるため \\
(左辺)^{2} - (右辺)^{2} \geqq 0 \\
を示せばよい。 \\
(左辺)^{2} - (右辺)^{2} =
\displaystyle \frac{a^{2} + 2 a b +b^{2}}{4} - a b = \frac{a^{2} - 2 a b +b^{2}}{4} = \frac{(a - b)^{2}}{4} \geqq 0 \\
\displaystyle 等号成立は、\frac{(a - b)^{2}}{4} = 0すなわちa=bのとき \ \ \ \ Q.E.D.
}

また、この不等式は両辺を2倍した { \displaystyle
a+b \geqq 2 \sqrt{a b}
} が、よく使われます。

{ \displaystyle
x + \frac{9}{x} \
(x>0)
}

正の数同士の足し算で表されたこの文字式、もし足し算じゃなくって掛け算だったら約分するとxが消えていい感じに文字数のないただの定数になりますよね。こういう文字式の最小値を計算する場合は相加平均と相乗平均の大小関係が有効となります。

{ \displaystyle
x>0,\frac{9}{x}>0なので、相加平均と相乗平均の大小関係より \\
\displaystyle x + \frac{9}{x} \geqq 2 \sqrt{x \cdot \frac{9}{x} } = 2 \sqrt{9} = 6 \\
\displaystyle 等号成立は、x=\frac{9}{x}つまりx=3のとき
}

ここで注意すべき点は、最小値であることを示すためには等号が成り立つ条件も必ず明記するということです。さもないと、6より小さくなることはあり得ないことを示しただけに過ぎません。同時に6が取り得る値の一つであることを示すことにより、初めて6が最小値であると認められます。

この注意に関連した、誤った解答例がこちら↓↓

{
【問題】 \\
\displaystyle x>0のとき、(x + \frac{4}{x})(x + \frac{9}{x})の最小値を求めなさい。 \\
【誤った解答】 \\
\displaystyle x>0,\frac{4}{x}>0,\frac{9}{x}>0なので、相加平均と相乗平均の大小関係より \\
\displaystyle x + \frac{4}{x} \geqq 2 \sqrt{x \cdot \frac{4}{x} } = 2 \sqrt{4} = 4 \\
\displaystyle x + \frac{9}{x} \geqq 2 \sqrt{x \cdot \frac{9}{x} } = 2 \sqrt{9} = 6 \\
\displaystyle ゆえに、(x + \frac{4}{x})(x + \frac{9}{x}) \geqq 4 \cdot 6 = 24
となるので、最小値は24
}

さて、どこが間違いなのでしょう。もう眠たいので答えはまた次回。おやすみなさい。

001-はじめまして(オイラーの等式)

1 御挨拶

初めまして(^^)

この度はブログますねた帳を開設いたしました、ミゾショーと申します。

私はとても数学が大好きで、子どもの頃から数字や図形と触れ合ってきました。 中学・高校時代では数学者になることを夢見て、そして数学者になるべくして九州大学理学部数学科に入学。 同大学の大学院で修士課程まで数学の勉強・研究をやってきましたが、 訳あって数学者の道は断念し、企業就職の道を選びました。

現在IT関係の仕事をしている傍ら数学の勉強は今なおも続けており、 数学は私にとってライフワークなのであります。

また、数学の話を周りの人にするのも好きでありまして、そのため小ネタを日々蓄えるようにしておりまして・・・ その数学の小ネタこそが、ますねたでございます。

全国のみなさんに、「数学の世界は楽しい世界」ということを知っていただきたい、 そのため様々なますねたを全国に配信したい、 そんな思いのもと、ついに本ブログの開設に至りました。 まだまだブログを始めたばかりで拙い表現もあるかとは思いますが、 ご愛読いただければ幸甚です。よろしくお願いします(^o^)

2 数学史上最も美しいよ

さて、記念すべき最初のますねたを何にしようか迷ったところではありますが、 やはりこの数式について、語りたい・・・

{ \displaystyle
e^{\pi i} + 1 = 0
}

これはオイラーの等式と呼ばれる、数学史上最も美しいと言われている等式であります。 全く別々のルーツで誕生した、

円周率の

{ \displaystyle
\pi \ ( = 3.14159...)
}

自然対数の底

{ \displaystyle
e \ ( = 2.71828...)
}

虚数単位の

{ \displaystyle
i \ ( i^{2} = -1 \ を満たす定数)
}

足し算の基準となる

{ \displaystyle
0
}

掛け算の基準となる

{ \displaystyle
1
}

これら5つの数学上重要な定数たちが、足し算、掛け算、累乗という基本の演算の組み合わせによって シンプルに(←これ、重要ですよ)表されているということは、 とても神秘的な事実なのではないでしょうか。

そもそも円周率は、 「円の直径と周長の比」 として幾何学的に定義されたものでして、 どんな大きさの円であろうとその比が一定であることは紀元前の時点ですでに知られています。

それから円周率を主に用いる関数として三角関数というものが誕生し、これが

{ \displaystyle
\sin \pi = 0 \\
\cos \pi = -1
}

というように、円周率が整数に変換されるシステムとなるのです。

時を経て17世紀頃、イギリスの数学者ネイピアらによって指数・対数の研究が盛んになり、 微分してもその姿を変えない指数関数」である自然指数関数

{ \displaystyle
e^{x} = 1 + \frac{1}{1!} x + \frac{1}{2!} x^{2} + \frac{1}{3!} x^{3} + ...
}

が誕生します。ちなみにこの右辺の表記はマクローリン展開と呼ばれるもので、 簡単に言えば、多項式で表せない関数を無限に続く多項式で表したらこうなりますよ、というような表現であります。 三角関数のサイン、コサインもマクローリン展開が定義でき、

{ \displaystyle
\sin x = \frac{1}{1!} x - \frac{1}{3!} x^{3} + \frac{1}{5!} x^{5} + ...
}

{ \displaystyle
\cos x = 1 - \frac{1}{2!} x^{2} + \frac{1}{4!} x^{4} - \frac{1}{6!} x^{6} + ...
}

という表し方になります。xに円周率を代入するとピタリ0や-1になるということですから実に不思議。

さらにこの自然指数関数は複素数の世界では

{ \displaystyle
e^{z} = 1 + \frac{1}{1!} z + \frac{1}{2!} z^{2} + \frac{1}{3!} z^{3} + ...\
(zは複素数)
}

マクローリン展開によって定義がなされるのです(本当は解析接続という複雑な手続きによるものですがややこしいので割愛)。

{ \displaystyle
z = i \theta \ (\thetaは実数)
}

としてあげると、マクローリン展開の奇数次の項には虚数単位iが現れ、 かたや偶数次の項には虚数単位iが現れず、このような形が出来上がります。

{ \displaystyle
e^{i \theta} =
( \ 1 - \frac{1}{2!} \theta^{2} + \frac{1}{4!} \theta^{4} - \frac{1}{6!} \theta^{6} + ... \ )
+ i( \ \frac{1}{1!} \theta - \frac{1}{3!} \theta^{3} + \frac{1}{5!} \theta^{5} + ... \ )
}

ご覧ください。上記数式の括弧の中身、どこかで見た形ですよね。そう、これぞサインとコサインのマクローリン展開です。つまり、

{ \displaystyle
e^{i \theta} =
\cos \theta + i \sin \theta
}

が成り立ちます。これはオイラーの公式です。 この公式、複素数の世界では指数関数と三角関数が密接に関係しているということを示唆しており、 この時点で私は十分驚くべきものだと思います。さらにこの公式に

{ \displaystyle
\theta = \pi
}

を代入すると、

{ \displaystyle
e^{\pi i} =
-1
}

が得られ、さらに-1を左辺に移項することにより、

{ \displaystyle
e^{\pi i} + 1 = 0
}

という、5つの定数たちが綺麗にコラボした等式が出来上がるのです。

この美しい等式が誕生するに至るまで、三角関数、自然指数関数、マクローリン展開複素数・・・ といったさまざまな概念が必要となり、まさに先人たちが長きにわたり幅広い分野を研究を続けた末誕生した賜物なのです。 考えれば考えるほど、奥深い等式ですね!

3 締め

このように、色々なますねたを全国に広めていきたいです。そのため色んな分野のますねたを提供してまいります。 また、記事に対してご意見・指摘・感想等ございましたら、遠慮なくコメント下さい! 今後とも、よろしくお願いします(^_^)